鯉のぼり 吹き流しの起源は?
お子さんのいる家庭では、5月の端午の節句になると鯉のぼりを飾ることがあるのではないでしょうか?
少子化が進んだことと、若くしてマイホームを持つことが難しくなった現代では、ベランダにも飾れる小ぶりな鯉のぼりが人気です。
一戸建てにお住まいの方が庭に飾ったり、敷地の広い幼稚園や保育園では、長さが数メートルはある鯉のぼりを上げているでしょう。
黒い真鯉と赤い緋鯉、小さな子鯉と色とりどりの鯉のぼりの1番上に、一見なんの形かはわからないようなものが、風に合わせてゆらゆらと揺れているのを見たことがあるでしょうか?
印象が薄く、忘れられてしまいがちな5色のゆらゆらは「吹き流し」と呼ばれています。
吹き流しは、黄色、赤、緑、青、金色(もしくはオレンジ)をしています。
これは、中国の古典の五行説と呼ばれる自然のエネルギー(木・火・土・金・水)を表しているとされています。
形は丸く筒状をしているところは、高速道路や野球場の風向きと風速観測で使われている吹き流しと変わりません。
違いがあるのは、柱に繋いだ側の反対側の部分が風を受けてはためきやすいよう色ごとにスリットが入っている点です。
吹き流しの柱側は、常に丸くなっているものがほとんどです。
なぜかというと、風を利用した風力の仕組みにあります。
入口と出口が同じ場合、入口から入った風はほとんど抵抗を受けずそのまま後ろ側の出口から出ていきます。
もし、入口が広く出口が狭い場合、出口へ向かうにつれて抵抗を受けた風によって、吹き流しの胴体を持ち上げる力が働きます。
さらに1度持ち上がると、同じ強さの風を受け続ける限りそのままはためくことができます。
つまり、吹き流しの入口が常に丸いのは、長い胴体を速やかに持ち上げるためといえます。
【 鯉のぼりは元々吹き流しだった 】
そんな吹き流しとは、いったいどんな存在なのでしょうか?
単に鯉のぼりの飾りき思われがちな吹き流しにも、実は長い歴史がありました。
鯉のぼりの始まりは、記録に残る限りでは平安時代、武士の家庭が最初と言われています。
当時、端午の節句に武具を飾り、家族の健康を願う行事がありました。
家の中には武器や防具、外には旗や指物、幟がたてられ、その中に吹き流しもありました。
もしかすると、定期的な仕事道具の点検が、いつしか健康を願う行事へと変わったのかもしれません。
平安時代から鎌倉時代、戦国時代にかけての端午の節句は現代と比べると飾るものに違いがありました。
当時の端午の節句では、武士の家庭なら必ずある旗、指物、幟、そして吹き流しが飾られていたのです。
当時の武士の仕事は戦、戦争です。
戦争の勝ち負けは、それぞれの武士団の勝敗で決まりますが、個人の活躍そのものも評価の対象になっていました。
動画も画像もない当時、個人や小さな○○家という集団の活躍は、戦目付けと呼ばれる監督役によって判断されます。
監督役も武士同士が戦う真っ只中にいては、自分の命も危うくなります。
そのため、見晴らしのいい離れた位置から武士の活躍を確認していました。
旗には大きく○○家、つまり小さな武士の集団がそこで働いていることを伝える役割があります。
幟も同じような役割がありました。
指物はというと、こちらは武士個人が背中に刺して戦うことで、○○家の誰々がどこで活躍していたのかを確かめる証拠になります。
吹き流しには、別の役割があります。
当時の戦では、参加した武士によって役割に違いがあります。
弓矢担当、鉄砲担当、槍担当という戦う方法による違いはもちろんですが、指示を伝えたり、号令をかけたりする大切な役割もあります。
甲子園では、監督の指示を選手に伝える伝令と呼ばれる仕事があります。
同じように、戦の最中にも司令部の命令を現場に伝える伝令兵という役割があり、彼らは吹き流しをつけていました。
伝令兵が吹き流しをつける理由は、味方はもちろん敵からも攻撃されないためです。
戦国時代になると、勝つために手段は問わない戦い方へと変化しますが、伝統的な武士同士の戦では伝令兵を攻撃しないという暗黙の了解がありました。
吹き流しには、攻撃されない、つまり不幸が来ないようにという意味が込められています。
【 それでも吹き流しを飾るのは? 】
戦国時代が終わり、戦のない江戸時代が訪れると、端午の節句は少しずつ一般向けに変わってゆきます。
武士の家庭で端午の節句が祝われていることを知った江戸の市民が、自分たちも吹き流しをか触るようになったからです。
その後、江戸時代の中頃には黒い真鯉が飾られるようになり、明治から大正にかけては黒い真鯉と赤い緋鯉が飾られるようになります。
そして、戦後の昭和半ばには、黒い真鯉と赤い緋鯉の他に、男の子を表す青い子鯉、女の子を表すピンクやオレンジの子鯉が飾られるようになり、吹き流しも再び加わって、吹き流し-黒い真鯉-赤い緋鯉-青やピンクの子鯉という順番で飾られるようになります。
つまり、吹き流しは鯉のぼりの起源ということになるわけです。
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