次女の羽子板を購入するべき?
お正月、女の子の健やかな成長と魔除けを祈って飾られる「羽子板」。伝統的なものから現代風のポップなものまで、様々なデザインのものがあります。玄関の一画や床の間など、目立つところに飾ると、お正月の華やかな雰囲気が一層引き立ちます。多くのご家庭ではひな人形同様、お嬢さんが生まれた後に購入して、その次のお正月に飾っていると思われますが、気になるのは二人目のお嬢さんが生まれた時。どんなものを買えばよいのか、そもそも二人目の女の子専用に羽子板を買うべきなのか?と、悩まれている親御さんやご家族は多い事でしょう。二人目、そして三人目のお嬢さんを迎えたご家庭につきもののこの悩みを、一緒に考えていきましょう。
伝統的に、ひな人形や羽子板といった人形が入った飾り物には、その女の子の身代わりとなって厄を引き受けてくれるという役割がありました。この考え方から、昔ながらの慣習を重んじるご家庭の中では「お祝い人形のたぐいは、女の子ひとりにつき一つずつ用意するべきである」と考える方が多いようです。
実際に旧家の中では、家庭の女性の人数分だけ羽子板が集結して飾られているお宅、歴代のひな人形を何部屋にもわたって並べられ、一般公開しているような場合も見受けられます。ですがこれは、あくまで伝統にのっとったライフスタイルを貫かれているお宅の場合ですので、個々人がこの伝統に従わなければならないという意味ではありません。
少し掘り下げてみると、本当に原初的な厄除け人形は「わら」や「紙」などオーガニックな素材で作られており、お祭りが終われば川に流したり、火に焼いて自然にお返しする。という形を取っていました。
つまり長期にわたって所有するという感覚がなかったので、大金を投入して豪華なものをそろえる必要はなかったのです。現在においては、このように「人形を自然に返す」ことはありませんから必然的に豪華さを誇り、お金をかけるべきものへと変容していますが「大切なお嬢さんの命や健康を守る」という、そこにこめられた親御さんやご家族の思いは変わらないと言えます。
その思いさえこもっているのであれば、羽子板を娘の人数分だけそろえなければいけない、一様に豪華なものを購入しなければいけない、という『ねばならない』の思い込みは必要ありません。お住いのスペースや、ご家庭の家計を逼迫させてまで、高価な羽子板を買う必要もないでしょう。お祝い人形や飾りの類は大変高価なものですが、同時にメンテナンスも必要とされます。一年の間で表に出すのは本当にいっときですが、それ以外はただひたすら収納スペースを消費する厄介さも持ち合わせている点、湿気や外注対策もしなければいけないなど、デメリットにもしっかり目を向けた上で購入を検討してみて下さい。
予算も収納スペースも、またメンテナンスやデコレーション準備にかける労力も限られている事の多い現代一般家庭では、伝統的な慣習にとらわれず、お嬢さん方自身や親御さんが納得できるかたちで、羽子板はじめお祝い人形を準備するべきだと筆者は考えます。核家族化が進行する中、これ以上母親・父親の負担やストレスを増やさないようにする、という意味もあります。
すなわち、ひな祭りにはお姉ちゃんのひな人形を家族みんなで飾ってお祝いし、お正月には次女の羽子板ケースを床の間に飾って、その前でおせち料理を楽しむ。というように、お人形たちの持ち回り出番をつくって、おのおのに活躍してもらうと言うのも一つのスタイルです。
もしこういったお祝いの席に招かれて「長女ちゃんと、次女ちゃん専用に羽子板を買ってあげないの?」という風に、おせっかいな口出しをしてくる外野さんがいたら、そこは笑顔とともに伝家の宝刀で切り返しましょう。
「うちはうち、よそはよそですから。」次女が羽子板で長女がひな人形、めいめいのお祝い人形に守られて育つというのがごく普通、というご家庭で育ったお嬢さんは、疑問を持たずに幼少期を過ごすでしょう。
もしお嬢さん自身が疑問を持ち、これは家庭内(姉妹間の)差別だ、自分も専用の羽子板が欲しい!と主張してきたら、その時はその時は「成長したのね!!」とまずは喜んでから対策を考えます。口が達者になっているなら、もう現実的な家計についてもある程度は理解が及ぶでしょう。金銭的なリミット、スペースの問題など、どうして姉妹がめいめいの羽子板・ひな人形を持つことがなかったのか、真剣に説明してもよいと思われます。ここでなし崩し的に後から高価なものを購入すると、家庭の方針というがっちりあるべき精神的な大黒柱がゆがみ、親の威信も確実に薄れます。
「そこまで欲しいなら、お小遣いを貯金して、好きなものを買いなさい」というのも一つの手です。子どもにとっては(親にとってもですが)、天文学的な値段であることを知らせるため、専門店に連れて行ったり、カタログを一緒に見てみるのもよいでしょう。「こ、こんなに高いんだ!お小遣い何年分?何十年分?」と実感してもらいましょう。ひとつだけでも大変なのに、姉妹めいめいにひな人形と羽子板を用意してくれたんだ…、と言う事まで理解してもらえれば大成功です。
各ご家庭で一番都合のよいやり方で羽子板を用意すればよい、そこに大切な娘さんの幸せや健康を願う思いがあれば、成長とともにいつかきっと受け入れてもらえると思います。つくりの豪華さや強いインパクトにかくれてしまいがちですが、四季折々に登場する日本の伝統は、大切な子供たちに向けたやさしさの込められたものだという事を、心に留めていただければ幸いです。