破魔矢と破魔弓の繋がりとは?
みなさんは「破魔弓(はまゆみ)」の意味を御存じでしょうか?
「神社で見かける「破魔矢(はまや)」は知っているけれど、対になる弓があるの?」と言う方もいらっしゃると思います。「破魔弓(はまゆみ)」の意味と由来について紹介させていただきます。
赤ちゃんが最初に迎えるお正月のことを「初正月」と呼びます。日本では古くから初正月を迎える男の子に「破魔弓・破魔矢(はまや)」、女の子には「羽子板(はごいた)」を贈る習わしがあります。
贈られた「破魔弓・破魔矢」や「羽子板」は、赤ちゃんのお守りの意味があり、皆が集う場所に大切に飾られます。
しかし「破魔弓・破魔矢」に込められた意味を知っている方は意外と少ないのではないでしょうか?どうして男の子に「破魔弓・破魔矢」を贈るようになったのでしょうか?
お正月に破魔弓を飾る意味は「節句」の魔除けという意味が込められています。お正月時期に行うこと、飾るものや食べるものに込められた意味は日本に古くから伝わる「節句(せっく)」と深い関係があります。
節句は古代中国から伝わった思想に日本の宮中行事が合わさった、神祭を執り行う重要な意味を持つ日で、昔はたくさんの節句がありました。節句と言うのは季節の変わり目のことで、日本では昔から季節の変わり目には邪気(鬼)が生じると信じられていました。節分には、邪気を追い払うための「悪霊祓い」や「厄祓い」の意味を持つ行事が多く執り行われてきました。
節句は昔は「節供」と書きましたが、それは節供の時期のものを供物として神に捧げていたことが由来とされています。病気になることも、邪気や魔物と関係があると考えられていましたから、節句の時期には「厄除け」の意味を持つ行事をしたり、家に「縁起もの」を飾ったり飲食したりと言う風習も生まれました。
現代にも残る節句は、1月7日の人日(じんじつ)、3月3日の上巳(じょうし)、5月5日の端午(たんご)、7月7日の七夕(しちせき)、9月9日の重陽(ちょうよう)の5つで、まとめて「五節句(ごせっく)」と呼ばれています。昔よりは減りましたが、昔からの伝統を引き継いでいるのが伺えます。
ちなみにお正月は「節分」となっていました。
「節句」と「節分」は似ている言葉なので少し紛らわしいのですが、この2つは別の意味を持つ行事です。
昔はたくさんあった「節句」は「五節句」となり、季節感のある日本の伝統文化として受け継がれている風習です。一方の「節分」は、年に4回季節ごとにある「暦(こよみ)」のこと。
節分とは、立春(りっしゅん)、立夏(りっか)、立秋(りっしゅう)、立冬(りっとう)それぞれの前日を指しています。
「立春」は2月3~4日、「立夏」は5月5~6日、「立秋」は8月7~8日、「立冬」は11月7~8日で、各季節の始まりの意味です。
皆さんも2月3日の「節分(せつぶん)」をご存知かと思います。
昔の日本では、鬼は邪気や厄の象徴とされていました。病や飢餓(きが)、災害など姿形の見えない恐ろしい出来事は、全て鬼の仕業と考えられていたためです。
節分には鬼がやってくるとされていたので、この邪気祓いの意味を持つ行事「豆まき」が生まれました。
節分は現在では2月3日に行われ、翌日の4日を「立春」としていますが、これは旧暦(太陽暦)だと12月31日が節分で、1月1日が立春とされていました。
旧暦の考えでは一年は春からはじまり、2月の節分に邪気祓いをすることはとても重要でした。
そして端午の節句(菖蒲の節句)には、男の子の赤ちゃんに五月人形を贈ります。
雛人形も五月人形も赤ちゃんの誕生のお祝いとして贈り、その後の健やかな成長を願って飾るものです。
それでは正月飾りの「破魔弓・破魔矢」や「羽子板」にも同じような意味や願いが込められているのでしょうか?
お正月がどのような意味を持っているのかを知って、次は日本の歴史の中で弓矢の持ってきた役割を紹介していきます。
弓矢は古来より神聖な意味を持っていました。日本では既に縄文時代には弓矢が存在していたといいます。
狩猟・採集生活をしていたその時代、弓矢は食料を得るために必要不可欠な道具であり、神聖な意味を持つものとして扱われていました。そして、宮中儀礼には欠かせなかった弓矢。
古代中国では端午(たんご)の節句に「鍾馗(しょうき)」と呼ばれる強い武神が現れて、弓で悪霊を退治すると言う伝説がありました。
その風習が日本の宮中に伝えられ、天智天皇(てんじてんのう)の時代の天智九年のお正月には、弓で的を射る「射礼(じゃらい)」や「大射(たいしゃ)」などの儀式が行われていました。
お正月に弓矢を使った儀式を行うことで「魔」を打ち払い、その年の健康や豊作を願ったのです。
その後も弓矢は神聖なものとして扱われ、神社や宮中での儀礼用具として常に重要な意味がありました。
遠方に向かって放ち標的を仕留める弓矢は、人間には知ることの出来ない「方向や距離を判定する占い用具」としての意味も持つようになりました。魔除けのための「破魔弓神事」だけでなく「弓射(ゆみいり)」と呼ばれる弓矢を用いた年占い神事も行われていたそうです。
その流れが合戦の武具として活躍した弓矢につながっていきます。
武家の間の合戦が多かった鎌倉時代から江戸時代にかけては、刀や槍(やり)・鉾(ほこ)だけでなく、弓矢も大切な戦いの道具でした。
鉄砲が登場するまでは遠方にいる標的を仕留められる武器は弓矢しかなかったからです。
当時の武士たちの間には、戦いに赴く前に神社へ参拝し自身の武具や防具を奉納すると言う習慣があり、その時に弓矢を奉納することもありました。
江戸時代以降は武士が戦で弓矢を使うことはなくなっていきますが、競技的な武術「弓射(きゅうしゃ)」や、疾走する馬上から的に鏑矢(かぶらや)を射る「流鏑馬(やぶさめ)」などの弓馬礼法は武士のたしなみとして続けられていました。
そして、現在でも行われる「鳴弦の儀(めいげんのぎ)」というものがあります。
「鳴弦の儀(めいげんのぎ)」とは平安時代から宮中で行われていた鬼を退ける儀式です。
矢は使わずに弓の弦を強く弾き鳴らして音を四方へ発することで、天地四方の邪気を祓う意味を持つ神事です。
現代の破魔弓でも、セットになった破魔矢が4本であることが多いのは、この天地四方の考えに由来するとされています。この儀礼行事は現代まで続いており、今日の皇室においてもお子様が誕生されてから七日目には、「読書・鳴弦の儀」が行われています。現代まで続く破魔弓の役割とその意味は「男の子のお守り」という思いがあります。
古来より使われてきた弓矢は神聖な意味を持つものとして扱われてきました。しかし、なぜ「破魔弓」と呼ばれるようになったのでしょうか?
実は破魔弓と言う名前は、飛鳥時代の「射礼」や「大射」の儀式に使われた「的(まと)」が元になっていると言われています。
この儀式ではワラ縄で円座のようなものを作って的としていたのですが、この的は「はま」と呼ばれていました。
そこから「はま」は弓矢でいる的、もしくは射的の競技を意味する言葉となり、後には儀式での弓矢の意味と役割から「破魔(はま)」の字を当て、それぞれ「破魔弓(はまゆみ)」「破魔矢(はまや)」と呼ばれるようになったのです。
神事で大切な役割を担う破魔弓・破魔矢は人々の拠り所でした。
古来の人々は弓矢には「邪気を祓い、目には見えない悪霊を退散させる」と言う特別な力が備わっていると信じていました。平安時代から神社や宮中で行われていた魔除けや厄祓いの「破魔弓神事」は、今でも神社などで行われています。破魔弓・破魔矢は家や家族のお守りとして、現在も引き継がれています。
このように破魔弓・破魔矢には、様々な邪気や災厄から身を守る力があると信じられてきました。
戦国時代の武家では、厄除けや縁起ものの意味でお正月に破魔弓・破魔矢を飾る習慣があったそうです。
現代でもお正月に神社へ初詣に行った際に「開運厄除・家運隆昌」を祈願して破魔矢を持ち帰って神棚に飾る風習がありますが、破魔弓とセットにする場合もあります。
新築の家の上棟式(じょうとうしき)の際、屋根の上に破魔弓・破魔矢を飾る「鬼門除け」も、弓矢の持つ魔除けの力を信じてはじまった風習です。
そして、破魔弓は男の子の初正月の贈りものとして現代に広まっていきました。
破魔弓・破魔矢を男の子の初正月に贈る風習も、武家社会で生まれたものです。
戦国時代に弓矢などを奉納した際に神社からいただいた模擬の弓矢を、戦場での「お守り」としていたのが由来だと言われます。
そこから、武家に男児が誕生した際に、破魔弓・破魔矢を贈るようになりました。
江戸時代の後期になると武士の風習が庶民の間にも広がり、男の子の初正月に破魔弓・破魔矢を贈ったり、赤ちゃんの成長を祈願して神社に参拝した際に授かった、破魔矢と破魔弓を飾ったりするようになったのです。
古来より儀式では神聖な役割を担い、武士の時代には雄々しさの象徴であり「邪気祓い」や「厄除け」の意味を持ち続けてきた破魔弓・破魔矢は、まさに「生まれてきた男の子の健やかな成長のお守り」に相応しい贈りものと言えるのではないでしょうか?
このように「破魔弓・破魔矢」は大切なお子様をあらゆる災厄から守り、健やかな成長を見守ってくれる「神聖なお守り」の意味を持っているのです。
男の子の初正月の贈りものとしてはもちろん、端午の節句にも五月人形と一緒に飾ることをお勧めします。
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