五月人形 伊達政宗
五月人形の中には実在の武士・武将の装備をモチーフにしたものがあります。なかでも兜に燦然と三日月が輝く、伊達政宗の甲冑は人気の品。余りにも有名で、日本で最も知られた鎧の一つと言えそうです。この鎧はデザインにも優れていますし、東北の名将として知られる伊達政宗の生き様にあやかるうえでも、飾ってみたい五月人形ではないでしょうか。
三日月の飾りと眼帯が代名詞の伊達政宗は、もとから人気の高い武将でした。かつては大河ドラマでも描かれたほか、近年はゲームや漫画にも登場しており、男性だけではなく女性からの支持も集めています。これほどの人気を誇る理由は、やはり、伊達政宗たどった稀有な運命と、不屈の闘志で困難な時代を生き抜いた生き方にありそうです。五月人形を飾る際には、そんな伊達政宗のエピソードをお子さんに聞かせたり、家庭の話題にするのも悪くありません。
そこで、伊達政宗の生涯について軽く見ていきましょう。生まれたのは1567年のことで、生誕の地は山形県米沢市です。仙台の印象が強いですが、実は出身は山形県。領地を取り上げられるなど紆余曲折を経て、仙台へと拠点を移したのです。幼名は梵天丸で、活発な子供だったようです。ところがある日、天然痘にり患して伊達政宗の人生は大きく変わりました。当時の天然痘は対処法がなく、致死率が極めて高かったのです。生死の狭間をさまよった梵天丸はなんとか回復しますが、代わりに右目の視力を失いました。
この出来事で梵天丸は性格が一変し、暗い引っ込み思案な子供に育ったとされます。対して弟の方は聡明で明るく、寵愛を受けてスクスクと育ちました。この境遇の違いが、梵天丸をさらに追い込んだのは想像に難くありません。
この事態を脱するため、父である輝宗公が梵天丸につけたのが、片倉小十郎です。小十郎は梵天丸の教育係として任命されましたが、伊達家の絆は次第に強まっていきます。以後の困難な時代にあっては互いに唯一無二の存在として、最後まで一緒に戦い抜きました。小十郎と、恩師である虎哉宗乙との出会いで梵天丸は立ち直り、伊達政宗らしく豪胆で勇壮な性格の若者へと成長します。加えて、病で苦労した分、健康管理を大切にするなど意外な一面も身に着けたようです。
元服して伊達政宗の名を拝した、14歳で隣国の相馬氏を相手に初陣を経験し、勝利を得ます。このころには既に才覚を現しており、父の輝宗から外交政策の一部を任されていたようです。その能力の高さから、輝宗は17歳の政宗に家督を譲って隠居。これにより伊達家第17代目の当主となったのでした。
当主になった政宗は奥州平定を目標に、隣の藩と激しく戦闘を繰り広げます。伊達政宗は緒戦のなかでも勇敢に活躍し、敵陣に正面切って対峙し、困難な戦いでしんがりを務めたこともありました。失敗に終わった戦いもありましたが、かれは持ち前の豪胆さと才知で難局を脱して南奥州を事実上掌握。後の豊臣秀吉による奥州平定の足掛かりを作ったと言えるでしょう。
後に伊達政宗は豊臣秀吉、徳川家康等の配下となりますが、それでも天下取りを目指してひと悶着を起こすなど、剛毅な振舞が随所に見られました。最終的には家康によって副将軍の地位を与えられの能力の高さを評価された一つです。
戦上手で知られた伊達政宗が参加した戦闘は、大坂夏の陣など有名なものも多いです。しかし、天下分け目の関ヶ原には出ていません。その理由は、奥州で慶長出羽合戦に参戦していたからです。この戦いは東北の関ヶ原とも呼ばれる重要な一戦でした。名将・直江兼続を擁する上杉の軍が、関ヶ原の合戦のために手薄になった東北地方で蜂起したのです。この時の東北で、家康側にいたのは最上義光だけでした。上杉軍2万4千に対し、最上郡は7千で対峙しています。。
最上義光は政宗の親戚筋ですが、長年のライバルで激しくやりあっていた相手です。戦もしましたが、性格的にも反りが合わなかったとされます。まさに目の上のたん瘤なので、これを上杉が攻めるのは伊達家にとって好都合でした。実際、片倉小十郎は無視を決め込むことを、政宗に進言したと言われます。
しかし、最上軍の窮状をみて、政宗は救援をよこしました。実は、政宗の母は最上義明の妹で、この時、山形城に居たのです。おそらく、母の身を案じたこともあって、最上義光を助けたのだろうと言われています。時に捕虜を全員撫で切りにするなど無情な振舞も見せる政宗ですが、このような情の深さもありました。このため、領民からの信頼も厚かったようです。お子さんと伊達政宗の五月人形を見ながら、このようなエピソードを話して聞かせるのは、良い思い出になるのではないでしょうか。
さて、三日月な印象的な伊達政宗の甲冑は、「黒漆五枚胴具足」と呼ばれるものです。深い漆黒を基調とした壮麗な鎧で、燦然と輝く金の弦月が美しい逸品。現在は色々なメーカーがこの鎧をモチーフにした五月人形を製作していますので、この機会にチェックしてみてはいかがでしょう。
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