羽子板での赤ちゃんの無事な成育祈願
今ではテレビゲ-ムとかスマホゲ-ムに席巻されて、子供たちには認知度が非常に低くなっています。ちょうど、現在では街角でバドミントンに打ち興じている子供たちのように、昔は羽子板で撃ち合いをしている子供たちを一年中見かけたものです。一つの遊戯として市民権があったといえるでしょう。
それがいつの間にか、誰もしなくなり、季節の風物詩の飾り物の一つになってしまっています。このように子供たちとの距離が出来てしまっている羽子板ですが、人昔前まではどこの家にも必ず一つか二つはありました。そして化粧飾りのついていない羽子板使って羽根つきをしたものでした。今50代の人たちの共通幼年体験の中の一つではあります。
その羽子板ですが、その由来となる羽子板の歴史は古く、七世紀から宮中で行われていた「毬杖(ぎっちょう)遊び」が起源と言われています。今風に言うと、テニスでいうボレ-ボレ-みたいなものになるかと思います。当時は先がヘラのような形をした杖(毬杖)で毬を打ちあう遊びです。この杖が変化して羽子板になったものと考えられています。
その後時代が1000年近く流れて、江戸時代になると、大名の間で年の暮れに女児の生まれた家に贈ることが慣例となり、女の子の厄除けという認識が醸成されていきました。
年月が流れて現代に伝わる様式美が形成されて来たのでした。ちなみに、羽子板で突く羽の玉、あの黒くて硬い玉は「むくろじ」という大木の種です。この「むくろじ」は漢字で「無患子」と書きます。つまり「子が患わ無い」という意味があります。
羽子板の羽の飛ぶさまが虫を食べるトンボに似ているので「子供が蚊に刺されないように」というおまじないとして始められたともいわれています。子供を思う気持ちというのは今も昔も同じなのですね。それが、現代の、生まれてきた赤ちゃんに『羽子板(はごいた)』や『破魔弓(はまゆみ)』をお祝いとして贈る美しい風習となっているのです。赤ちゃんが初めて迎えるお正月『初正月(はつしょうがつ)』には、女の子だったら羽子板、男の子なら破魔弓を飾り、子供のその後の健やかな成長や幸せな人生を願うのです。まあ、なんとなく子供の無事を祝うというのではなくて、男女別にきちんと贈る物を分けて制度化?されたのでした。
現代ではまさにコロナ禍で人々は苦しんでいますが、それでも現代のように医療技術が発達していなかった時代には、生まれて間もない赤ちゃんがきちんと大きくなっていくということは大変なことでした。現に妊活をしている若い夫婦が「このコロナが収まるまでは、少しまとう」という苦肉の選択をしているのを、周りで見聞きしていることと思います。現代でも赤ちゃんの誕生をずらそうかというくらいですから、病気とか飢えとか災害の多かった昔は生まれた大切な命をすくすくと育ていたという気持ちは今よりもさらに強かったかと思います。
その為に「邪気(鬼)祓い」や「厄除け」の意味で羽子板・破魔弓を飾り、子供が無事に年を越せるよう願ったのはきわめて当然のことだったのかと思われます。ちなみに、羽子板・破魔弓の飾りつけをする時期は年末ということになります。師走になると街中があわただしくなり、12月13日は『正月事始め』と呼ばれ、昔ながらの風習ではこの日に門松やしめ縄などを用意したり、羽子板や破魔弓などを飾ったりと、お正月の準備をすることにかかるようになります。
西洋文化の影響も、日本の古式ゆかしき風習に影響を与えることがあります。最近ではクリスマスが過ぎてから正月飾りを飾る方も多いですが、12月29日や31日の大みそかに飾るのは「にじゅうく=二重苦」や「一夜飾り」と呼ばれ、縁起が悪いとされるので避けるのが良いでしょう。そして、基本的に羽子板や破魔弓などの正月飾りは、お正月が終わったら片付けます。この初正月祝いである羽子板・破魔弓は、、いつ飾りものして必要なのか、いつしまうのかということが決まっています。一年中、飾っておくものではありません。ただ、実際はインテリアとしても美しいものではありますので、一般的には1月15日の『小正月(こしょうがつ)』までは飾っておくと言う方が多いです。この小正月には全国各地で『左義長(どんど焼き)』が行われます。この行事は、その年のお正月に飾った門松やしめ縄、書初めやお守りなどを集めて燃やす古くからある火祭りです。古くなったり、壊れてしまった羽子板や破魔弓を『左義長(どんど焼き)』で燃やして、処分することも一つの形にはなっています。人形供養みたいなものかと考えたらよいでしょう。ざっくりした言い方をすると12月中旬から1月中旬まで羽子板・破魔弓を飾るのは昔ながらの慣習なので、その時期より前に飾りつけたり、小正月を過ぎて飾っていても縁起が悪い訳ではありません。
若いお父さん、お母さんがせっかく赤ちゃんの初正月のお祝いとしていただいた羽子板・破魔弓ですから、できるだけ長く飾って楽しむの、しきたり違反という事にはなりません。初正月の他にも、赤ちゃんが生まれると『お宮参り』や『お食い初め』に始まり、雛人形や五月人形を飾っての『初節句(はつせっく)』と、結構、次々と行事が続いて行きます。ところでそうなると、羽子板は誰がいつ買うものなのでしょう?若いお父さん、お母さんが 専門店に出かけていって選ぶということはあまりしません。多くの場合、羽子板は一般的に母方の実家から贈られていたものですね。ただ、今では、若いお父さん、お母さんの実家が半分ずつ費用を負担するということがスタンダ-ドになっています。おおむね、 羽子板は11月中旬あたりから店頭に並びはじめますので、12月初旬には飾りつけができるように、祖父祖母さんが準備するのがよいでしょう。