羽子板の藤娘は憧れの象徴
押絵の羽子板飾りを選んでいると、可愛いモダンなものとは対照的で、江戸時代の日本女性をイメージしたものも多く目につきます。中でも藤の花の飾りをつけた藤娘の羽子板はつくりも豪華で高級な羽子板として販売されていることも多いです。
藤娘は昔愛された舞踊に登場する女性なので、昔ながらの日本女性の羽子板飾りを欲しがる高齢者などに人気です。和の小物の飾りの側に置くにも似合うので、和室に飾る羽子板を探すなら藤娘の羽子板に注目してみても良いでしょう。藤の花は、時期になれば公園などでも咲いているのを良く見かけるので知っている人も多いですが、藤娘というのは知らない人も多いものです。
藤娘は、古くは絵物語に登場する女性です。この物語からインスピレーションを受け、長唄に用いられ、歌舞伎舞踊の演目として登場し江戸時代に庶民に人気を得ました。代々人気のある歌舞伎役者によってアレンジされ、内容も演出も初期のものとは変化し変わっていきましたが、現代の歌舞伎舞踊の演目でも必須になっています。歌舞伎や舞踊に縁がない人であればこの藤娘というのを知らないこともありますし、知らない人が羽子板の藤娘を見ても、ただの花飾りをつけた女性、としか思わないこともありますが、藤娘の話を知っている人や歌舞伎舞踊好きの人であれば、藤娘の羽子板飾りが置いてあれば気にもかけますし、粋な趣味を持っている人だと思われるものです。
飾り物はその人の趣味や好みを反映させるものでもありますし、わざわざ口に出さなくても間接的に自分の趣味を知ってもらえるということになりますから、さり気なく飾って来客にアピールしてみても良いでしょう。また、和の置き物というのは上品で落ち着いた印象にもなるので、和室や和の空間に最適です。こうした昔ながらの舞踊や物語をモチーフにした羽子板飾りというのは普段眺める機会もないですが、舞踊や歌舞伎、日本文化などにちなんだお祭りにでかけると販売されているのを見ることもできます。
代表的なのが浅草寺の羽子板市です。この羽子板市はとても伝統があり、まさに飾りの羽子板がブームになった江戸時代初期から続いています。江戸時代の羽子板市では人気の歌舞伎役者の押絵飾りも販売されていて人気があったので、当然人気演目の一つである藤娘をモチーフにした押絵の羽子板も注目されていたでしょう。
こうした羽子板ばかりを集めたお祭りに出かけてみると、当時の賑わいを感じられて楽しいでしょう。羽子板はそもそも魔よけや厄払いの意味でお正月に飾るものでしたが、江戸時代に飾る目的で利用されることも多くなった為、その名残で今も華やかな羽子板飾りを節句に飾るという風習があります。飾りとして楽しむということが現代の人にも受け入れられているため、今でも需要がある数少ない伝統品の一つであると言えます。昔は一部の人しか使用しなかったものが縁起の良い飾り物として受け入れていったのは、歌舞伎や舞踊の役割が大きいでしょう。
歌舞伎は一般の人が楽しめるように工夫され発展していった娯楽ですから、歌舞伎とともにバリエーションが増えていった羽子板は、歌舞伎や舞踊の恩恵を多く受けているといえます。
藤娘は今でいう人気モデル、人気女優ですから、藤娘の羽子板も昔はもっと需要があったとも思われます。日本を代表する花といえば桜や梅を頭に浮かべる人もいますが、どちらも春先の花です。五月といえば勝負や藤の花などの紫色の花が一般的でしょう。藤娘の羽子板飾りを飾ることで初夏を感じることもできるので、お雛様の次の飾りに藤娘の羽子板飾りを飾ってみても季節感が出ます。子どもの日の節句は男の子のための鯉のぼりや五月人形が主で、女性を主人公にしたお人形はなかなか見なくもなりますから、そうした時期に藤娘の飾りというのはちょっと珍しくて良いです。
藤の花の一番見ごろの開花時期というのは短く、その間に藤の花をめでることができないこともあるでしょう。そんな時も藤娘の羽子板は部屋を華やかにしてくれます。特に高齢にあってくると行きたい場所や花見がしたくても、自分一人ではなかなかいけないということもあります。ですから部屋の中の飾りは良いものを置いて心を癒したいと感じることもあるものです。美しい着物や飾りは見ているだけで満足できるものでもありますから、藤娘の羽子板で家にいても楽しめるようにしましょう。
藤娘の羽子板と一言でいっても、職人さんによって仕上がりもイメージも質感も全然異なります。藤娘の役柄を演じる人が変わればまたイメージが変わるのと同じように、誰が作っても同じというようにはならないので、自分のお気に入りの藤娘の羽子板を見つけましょう。
髪飾りの藤の花の量から顔の表情まで個性が出ているので、自分好みのものをいくつか買って並べてその違いを楽しんでみても良いのではないでしょうか?
既製品でないものは、その違いを楽しむ。ということもできます。